2021デジタルアーカイブ産業賞 受賞内容
ビジネス賞
- 「ASEAN統合デジタルアーカイブ」株式会社NTTデータ
貢献賞
- 「Yahoo!ニュース 未来に伝える戦争の記憶」ヤフー株式会社
技術賞
- 「デジタルアーカイブに特化した高精度スキャナ機器開発と公開活用」アイメジャー株式会社
- 「3DDB Viewer」産業技術総合研究所 情報・人間工学領域 人工知能研究センター 地理情報科学研究チーム
- 「BnF×DNP ミュージアムラボ」大日本印刷株式会社
奨励賞
- 「デジタルアーカイブコンテンツ管理プラットフォームの提供とデジタルコンテンツ利活用の推進」株式会社メディアプラス
- 「EPAD『緊急舞台芸術アーカイブ+デジタルシアター化支援事業』」EPAD実行委員会
- 「学術資料のデジタルアーカイブ事業(調査・整理・活用・発信)」合同会社AMANE
【受賞理由】
ビジネス賞
◆受賞者:「ASEAN統合デジタルアーカイブ」株式会社NTTデータ
ASEAN事務局、ASEAN10カ国の政府、各国の文化機関(図書館・博物館・美術館)、日本政府及びNTTデータが協力し、ASEAN各国の文化遺産を一元的に保全・公開し、地域全体の文化の相互理解や発信を推進する場を構築し、IT技術を活用することで日・ASEANの『文化』における交流・貢献に寄与した。
また、アーカイブの対象には有形文化財の2D・3Dデータから、無形文化財の音声・動画までが含まれており、3Dコンテンツに関しては新たにアプリをインストールすることなく、ブラウザ上で閲覧可能とすることで、デバイスを問わずコンテンツ閲覧可能な環境を提供している。
今後の展開としては、ASEAN全域の各国の有形・無形文化財のデジタル化に加え、各国内でデジタル化を可能とし、持続可能なノウハウの提供も含めた人材育成も視野に入れたプロジェクトが想定されている。
今回のACHDA (ASEAN Cultural Heritage Digital Archive)プロジェクトにより、国や機関の枠を越えた大きなスキームのデジタルアーカイブが成立し、BtoGビジネスの成功例として、ASEANの発展に寄与していることの功績を推薦の理由とする。
貢献賞
◆受賞者:「Yahoo!ニュース 未来に伝える戦争の記憶」ヤフー株式会社
ネットポータルとして日々起きるニュース情報配信に加えて、ストックとしてのアーカイブ機能を持たせたもの。巨大プラットフォーマーとしての責任や公共性とは何かへの一つの解でもある。また、様々なメディアのアグリゲーターの特色を生かして、地方メディア(新聞、テレビ)との連携によるオープンメディアによるデジタルアーカイブを実現して広くユーザーに届く仕組みを持たせた点がユニークである。
技術賞
◆受賞者:「デジタルアーカイブに特化した高精度スキャナ機器開発と公開活用」アイメジャー株式会社
2004年、業界で初めて大型作品をテレセントリックレンズという特殊レンズを使用した正射投影法による1万対1の寸法精度のフルカラースキャニングを可能とするスキャナ機器を開発。このスキャナは、刀剣や能面などの立体物や凸凹のある深い焦点深度が必要な対象であってもレイヤースキャン(フォーカスブラケットスキャン)を行い深度合成し簡単に歪の無いパンフォーカス画像が取得できる。
近年、この技術を発展させてデリケートな写真乾板の高精度スキャニングを可能とする機器を開発。2016年より、これらのスキャナを分解搬送する出張スキャニング業務を開始し多くの実績を重ねている。2021年より(株)フォトロン(旧イマジカデジタルスケープ)の高精細ビューワを活用しコンテンツ制作を開始。デジタル化したデータから高精度に再現できる点で貴重な技術である。
◆受賞者:「3DDB Viewer」産業技術総合研究所 情報・人間工学領域 人工知能研究センター 地理情報科学研究チーム
これまで文化財や建造物などの立体物のデジタルアーカイブを構築するにあたって、外観の写真や図面などの「写し」のデジタル化、二次元データがほとんどだった。近年、世界的に立体物を三次元データとしてデジタル化・記録する例が拡大している。手法もフォーマットも異なる単独のデジタル化・記録が多く、利活用可能なアーカイブに押し上げるためには多種多様な三次元データ(点群/メッシュ/構造物等)を格納し、容易に検索/閲覧できるシステムが求められていた。このWebユーザインタフェース技術は3Dデータの公開方法に新たな可能性を開き、三次元データの一層の普及への緒となるものと言える。
◆受賞者:「BnF×DNP ミュージアムラボ」大日本印刷株式会社
フォトグラメトリ技術ではデータ化が困難とされてきた金属光沢・半透過(宝石など)及び複雑な彫刻が施されたトーラス体の撮影と3D合成に成功。また、フォトグラメトリ技術を空間デジタルアーカイブにも応用し高精細な天井・壁画のデジタル化を行っている。
鑑賞システムではVR研究で知られるリダイレクテットウォーク現象を活用し、小さな展示施設だけで大きな仮想空間の中を実際に歩いて移動、階段を上り天井画に近づく体験を実現しており、新しい展示体験を提案している。
奨励賞
◆受賞者:「デジタルアーカイブコンテンツ管理プラットフォームの提供とデジタルコンテンツ利活用の推進」株式会社メディアプラス
デジタルアーカイブコンテンツ管理プラットフォーム提供と利活用の推進を幅広く行っている。長期保存と連携したアーカイブシステム 「Cerca(セリカ)」、アーカイブしたデータをパブリックに共有できるクラウドサービス「Spinner(スピナー)」を用いて、幅広くアーカイブデータの活用を推進。
事例︓Web角座(松竹芸能)、吹田まつり(吹田まつり事務局)、Castory(イージェット-保育園サポート)など。
また、VTR等ビデオテープに保管された映像資産のファイル変換を促進。国内に残された貴重なアーカイブ資産のデジタル化支援・啓発活動を行っている。
◆受賞者:「EPAD『緊急舞台芸術アーカイブ+デジタルシアター化支援事業』」EPAD実行委員会
対応しなければ散逸する危機にあった舞台作品収録映像を、収集権利対価の支払いなどを通じて、多様な分野(演劇、舞踊、伝統芸能など)にわたり全国から収集した。その収集作品群は、早稲田大学演劇博物館で収蔵することで安全に保管でき、館内閲覧に供することができる。またEPAD事業全体、およびJDTA(Japan Digital Theatre Archives)では、戯曲デジタルアーカイブといった収集作品の検索、閲覧ができるポータルサイトを構築し、舞台芸術界のデジタルアーカイブに貢献した。
これらのデジタルアーカイブは同一作品など共通する要素が含まれるものがあるため、各アーカイブが連携することで、それぞれの資料を一層活かすことができ、EPAD全体としての価値も高まるはずである。EPAD事業をきっかけに構築された各アーカイブにおける相互連携を強化し、より充実した成果が生み出されることを期待し、奨励賞を贈りたい。
◆受賞者:「学術資料のデジタルアーカイブ事業(調査・整理・活用・発信)」合同会社AMANE
合同会社AMANEは、「学術資料の調査・整理」と「学術資料の活用と発信」を2本柱とする企業で、北陸を中心に活動。学術コンテンツのデジタル化と利活用をアカデミアとビジネスの2つの点から実践してきている点をまず評価したい。
そしてコロナ禍においては、苦境に立たされた図書館や博物館施設の文化活動を後押しする「キテンプロジェクト」を立ち上げている。このプロジェクトではデザイナーや司書、学芸員らと協業して、ソーシャルディスタンシングを促すデザインの実装に取り組み、ここにデジタルアーカイブを積極的に活用している。こういった社会貢献的な事業への取り組みも評価したい。
原資料の取り扱いから評価、保存、デジタル化、デジタル化データの活用まで6次産業的な展開を見せており、非常に貢献度が高いと考える。特にこの1年は社会貢献として東北大学や大阪市立図書館での取り組みを展開しており表彰に値する。
参考:https://amane-project.jp/tenjitsukenji/